この間、戦慄したのは事故の甚大さと同時に、なにより日本政府の「隠蔽」と「分断」の巧妙さでした。日本社会のそうした性質に気がついていないわけではありませんでしたが、ここまでみごとに貫徹するとは戦慄です。このまま今後、20年、25年の私たちの社会の変化は予想がつきません。
なにより、放射性物質によるリスクそのものの受忍だけでなく、この隠蔽と虚構に対しても「受忍」せよというのでしょうか。ひとり荒海に放りだされた心境です。羅針盤をしっかりはたらかせないと。
以下、IAEA、WHOなど8国際機関、ロシア・ウクライナ・ベラルーシがまとめたチェルノブイリから20年後の最終的な事故評価が2008年出版の「医学の歩み」にのっていたので、書きだしておきました。(あの長滝重信によるもの)
ここでは、事故のひきおこしたもっとも大きな問題として人々の健康や身体状況よりさきに、まっさきに経済的・社会的おちこみ、そして人々の「精神的」「心理的」問題があげられています。そして5.でもくりかえされるように「社会的、経済的復旧と地域の人々の精神的な心配」とあるとは。
なんか「にっぽん」みたいですね。
表1 IAEA、WHOなど8国際機関及びロシア・ベラルーシ・ウクライナ三国共和国
コンファランス及びチェルノブイリフォーラム(20年記念行事)からのまとめ
【被曝者と考えられる人】 人数 推定被爆線量
1.原発勤務者・消防士など 237人 致死量に至る
2.汚染除去作業者(1986~7) 24万人 >100mSv
3.強制疎開者(1986年) 11万人6000人 >33mSv
4.高線量汚染地 27万人(1986~2005) >50mSv
5.低線量汚染値 500万人(1986~2005) 10~20mSv
【科学的に健康影響が認められた人】
1.急性放射線障害の症状 134人(237人が入院)3カ月以内に28人死亡、その後20年間に19人死亡
2.小児甲状腺癌:約4000人以上、そのうち死亡が確認された患者9~15名
3.白血病を含めその他の疾患の増加は確認されていない。
4.精神的な障害(subclinical)が最大の健康影響であり、至急対策が必要
5.不確実ではあるが事故の大きさの概略の印象のため、今後の死亡率者数を推定すると4000人(あるいは9000人)である。数万、数十万人ということはない。
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1.チェルノブイリの事故は歴史上もっとも深刻な事故であり、大量の放射性物質が放出された。しかし現状で最も大きな問題は、深刻な社会的、経済的な落ち込みとそれに伴う精神的、心理的問題である。
2.数百万に及ぶ事故処理作業員及び汚染地域の住民の被曝線量は、自然放射性物質と比べられる線量で健康に対する影響は認められない。
3.例外は、数百万人の事故当時、また早期に事故処理に参加して大量の被爆を受けた方々でこの中で50名が既に亡くなっている。もうひとつの例外は、汚染されたミルクの服用により甲状腺に比較的大量の被爆を受けた子供であり、2006年迄に4000人の患者が発見されているが、適切な治療により99%の患者は生存している。
4.汚染地域の放射能は事故当時の数百万部の一に減少しており、人の健康と経済的な活動に影響はない、しかしチェルノブリ原発周辺、その他一部の地域では更に数十年を規制する必要がある。
5.各国の政府の対策は時宜を得たものであり、適切であった。しかし最近の調査の結果によると現在各国の政府にとって一番大切なことは、社会的、経済的復旧と地域の人々の精神的な心配を取り除くことである。政府としても一つのことは、4号炉の解体、大量の放射性物質の安全な取り扱いである。
6.標的を定めた長期の調査研究は今後も数十年は継続されるべきであり、今まで行われた調査結果は潜在的なものも含めて保存されるべきである。
7.この報告書はチェルノブイリ原発事故に関する最も完全な報告書である。その理由は、報告書は環境の放射線、健康に対する放射線の影響、社会経済的な影響を含み、世界の100人以上の専門家が、被爆3共和国の専門家も一緒になって貢献したものであり、国連関係の8つの国際機関と3共和国の同意の審査を受けたもの(consensus review)だからである。
(長崎大学教授 長滝重信のまとめ)
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それでも「例外」あつかい。おもわず 「強弁」、とつぶやきました。
こうした報告書が20年後にもまた反復され、こどもの病、死者がたんなる統計に数え上げられると思うと。もっとも数えられたくない相手に、数えられること。 点呼されること。それだけで屈辱です。
たとえば政権がかわったとか国が脱原発にむかったとしても....ひとりひとりがこの一回の事故でおこったこと、抱えていかなければいけない怖れ、死、身体の毀損...諸々は途方もなく、どんなささやかなことであっても、とりかえしがつかないし、うめあわせできないし、数えられないのです。
一方、ここまでIAEAが「心理」「精神的」影響をここまで強調していることからして、ひとびとが放射能を怖れること、放射能に恐怖を抱くことが、原子力推進側にとって、根本的にいちばん厄介だということもうかがえます。
この報告書は今後、10年、20年、25年と、わたしたちが、いかにこうした過小評価と、隠蔽とに抗っていくべきかということを、逆説的に問うていると思います。
引用
「チェルノブイリ原発事故から甲状腺癌の発症を学ぶ」児玉龍彦『医学の歩み』Vol231号
2009.10.24
http://plusi.info/wp-content/uploads/2011/08/Vol.28.pdf
この報告書に関する批判
「チェルノブイリ事故の死者の数と想像力」今中哲二『科学』2006年5月号
シリーズ・現代の被爆第4回
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/etc/Kagaku2006-05.pdf
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