東京新聞 2013年12月27日 「こちら特報部」より
この1年、自民党安倍政権が日本版NSC法、秘密保護法、靖国参拝と、いろいろやらかしたせいで原発事故そのものの関心が、それてしまったような感があります。
「政治」そのものが、ものごとをかくしていく過程であることがよくわかった1年でした。
核惨事下を生きていることを忘れないために。
以下、年末の記事を記録として。
◆福島原発事故をめぐる安倍政権の1年・「東電救済=被災民切り捨て+国民負担」
今月に入り、立て続けに福島原発事故をめぐる重要な施策が決まっている。26日には原子力損害賠償紛争審査会が避難指示解除後、原則1年で慰謝料を打ち切ることなどを決定。27日には、東京電力の新たな総合特別事業(再建)計画が政府に提出される。一連の動きは「被災者と国民の負担による東電救済」と要約できる。「脱原発依存」の選挙公約を覆した安倍政権の結論だ。
◆国民負担増やし 東電を救済
「東電は『事故責任』を取らず、被災者は『自己責任』を負わされる。こんな矛盾したやり方はない」。慶応大の金子勝教授(財政学)は皮肉交じりにこう非難した。 今秋以降、政府などが打ち出した福島原発事故についての施策はいずれも、加害者の東電の救済と被災者の切り捨てが前提になっている。汚染者負担の原則などどこ吹く風で、税金や電気料金の形で国民に一層の負担を強いるものばかりだ。
◆中間貯蔵施設 除染費も税金
今月20日に政府が決めた復興指針にある東電支援策では、賠償や除染に関する資金の支援枠を現行の5兆円から9兆円に増やす。5兆4000億円と見積もる賠償費用こそ東電を中心とした各電力会社の負担で変わらないが、除染費用2兆5000億円と、放射性物質で汚染された土壌を一定期間保管する「中間貯蔵施設」の建設費用1兆1000億円は国が全額負担する。 除染費用は、原子力損害賠償支援機構が保有する簿価で1兆円分の東電株を将来的に売却して賄う予定。ただ、この株は政府が昨年7月に東電を実質国有化した際に投じた税金の対価だ。本来なら、売却益は国庫に戻して、除染費用は東電に負担させるのが筋だ。
過去の例では、産業再生機構(2007年に解散)はダイエーやカネボウ(現クラシエ)を再建させた後、残った資産を国庫に納めた。東電だけを特別扱いするやり方に批判は少なくない。 さらに「国が前面に出る」ことになった汚染水対策でも、当初の470億円から220億円上乗せし、690億円を政府が肩代わりする。 東電優遇の施策は、それだけにとどまらない。経済産業省は10月、電力会社の会計規則を見直した。原発を廃炉にする費用は特別損失として当該年度の決算に一括計上しなければならなかったのを、複数年度に分けて処理できるようにした。
◆廃炉の損失を電気料金転嫁
以前は多額の損失が一気にのしかかって経営危機に直結するため、廃炉は現実的ではなかった。今後はある程度進むとみられているが、国民の負担はむしろ増す。廃炉費用を電気料金の原価に含められるようにしたからだ。電力会社救済のために、ここでもツケは国民に回る形にされた。
こうした施策を次々に打ち出した政府の狙いは東電と、東電に出資している金融機関を守ることにあるのは明らか。金子教授は「国が相当の金額を肩代わりするにせよ、東電には10兆円以上の借金が残る。返せる当てなどないのだから、破綻処理しかない。このままのやり方では国民負担がどんどん増えるだけだ」と警鐘を鳴らしている。
◆被災者切り捨て そして再稼働
「被災者切り捨て」の動きも顕著だ。政府は先の復興指針で全員帰還の原則を断念、原状回復の大方針を捨てた。 26日に開かれた文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会では、原発事故で帰宅の見通しが立たない「帰還困難区域」の住民に対し、東電が慰謝料として、一括して一人当たり700万円を支払うことが決まった。 これまでに支払われた慰謝料の将来分と合わせた賠償額は、1450万円になる。それでも住み慣れた故郷を追われ、職場や学びの場を失ったことへの代償として十分だとはいえない。
帰還を促される被災者にも厳しい。避難指示が解除される地域への早期帰還者には数十万円の賠償が上乗せされるが、慰謝料は解除後、原則1年で打ち切られる。街全体の復興を顧みず「早く戻れ。後は自己責任で」といわんばかり。被災者からは「手切れ金」と評する声が上がっている。
原子力規制委員会が示した解除の目安は空間線量が年20ミリシーベルト以下。飲食が禁じられた放射線管理区域の線量が、年換算で5.2ミリシーベルトであることと比べると異常だ。さらに政府は規制委の提言に基づき、帰還時の被ばく線量を従来の空間線量から個人の実測線量に変更することを決めた。 数値は事実上、空間線量より低くなる。復興指針には「年間被ばく線量1ミリシーベルト以下」とあるが、あくまで「長期目標」の値にすぎない。
これらの施策には除染費の削減がちらつく。除染費は独立行政法人・産業技術総合研究所の試算で5兆円以上とされていたが、2兆5000億円と半分に見積もられた。汚染のひどい帰還困難区域の除染を放棄し、避難指示が解除される区域の線量を個人線量で軽く見せることにより、除染が手抜きされる懸念が濃い。 その一方で、国は東電の救済には手厚い。 6日にまとまった経産省のエネルギー基本計画の素案には原発が「重要なベース電源」と明記され、民主党政権の原発ゼロ方針が転換された。
待っていたかのように東電は25日に新しい総合特別事業計画をまとめた。柏崎刈羽原発(新潟県)6、7号機を来年7月から再稼働する見通しが盛り込まれた。27日に茂木敏充経産相に届け出され、年明けにも認定される運びだ。
◆値上げ「人質」 原発を再稼働
東電が再稼働に熱心なのは収益を上げたいからだ。東電側は再稼働が遅れれば、値上げもあり得ると、電気料金を人質に再稼働を迫っている。 金融機関11社は26日、東電に対し、新規と借り換え分の計5000億円の融資を行った。再建計画を受け、14年度以降、安定した黒字化が見込めると判断したためだ。政府と東電、金融機関はがっちりとスクラムを組んでいる。 京都大大学院の植田和弘教授(環境経済学)は「廃炉に向けた会計規則や汚染水対策への支出など、東電への特別扱いは問題。事業者のモラルハザード(倫理観の欠如)を招きかねない」と批判する。 一連の政府の施策は電力会社が原発事故を起こしても責任を問われず、国が救済するという前例にもなりかねない。
植田教授は、東電を破綻させずに賠償させるやり方に無理があったとみる。「この仕組みでは、東電は賠償原資確保のために電気料金引き上げや原発の再稼働を図り、損害賠償の金額を節約しようとする。今からでも遅くはない。東電の経営者や株主、貸し手の責任を明確にすべきだ」
[デスクメモ]
戦争で亡くなった身内を悼む。人の優しさだ。原発事故の被害者を救済したい。これもそうだ。そうした善意を「神話」で包み込んで、権力者が逆手に取る。靖国も原発も、その構造はカルトや悪徳商法と同質だ。そんな醜悪な現実を意識させられた年の瀬。問われているのは「個」の自立と確認する。(牧)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2013122702000146.html
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